昔は外飼いが当たり前だった飼い犬ですが、最近はいろんな環境の変化もあって、家の中で飼っていることも多いですよね。家の中でワンちゃんたちは様々な過ごし方をしているかと思いますが、夜寝るときなんかはどうしているのかというと、室内でケージに入れて寝ているとか、犬専用の寝床を作っている人もいれば、家族同然だからベッドに一緒に寝ていますよ!と答えられる方も増えてきています。
子供同然にかわいがっている人も多いわけで、スキンシップもたくさんしていると思うのですが、でもそれって大丈夫かな?衛生面とか、他に気を付けることってあるのかな?と思う方もいるでしょう。とくに、小さなお子さんやお年寄りのいる方のお宅では、不安になっているかもしれません。
そんなあなたに、犬からうつる病気事情をお伝えします。
意外と多い!?愛犬と一緒に寝る人の割合
愛犬と一緒に寝たい人の割合は増えている
ドラマや映画で、寝室のベッドから愛犬がのそっと起き上がってくるシーンを見たことがある方もいらっしゃると思います。海外ドラマなんかで特に多いですよね。犬と一緒に寝ることにあこがれる、というひともいます。
あなたは愛犬と一緒に寝ていますか?最近はペットとの関係が密になり、一昔前ではそれほど多くなかったのですが、愛玩犬のブームが来たあたりから徐々にペットと一緒に寝る人の割合は増えているようです。
愛犬と一緒に寝ること自体については、いろんな理由から賛否両論あります。実際、とあるサイトのアンケートでペットと一緒に寝ることについての賛否をインターネット調査したところ、反対がやや優勢ではあるものの、賛成派も5割近くという結果になっています。(参照:Qpet https://qpet.jp/dog/column00064/)
実際に一緒に寝るのはナシと思いつつも、心情的にはアリと考えている人もいれば、一緒に寝るのはアリとしつつも、状況次第でいつも一緒に寝ているわけではないという人も一定数いるのだとか。犬は、子犬に限らず、基本的に誰かとひっついていると安心できるということもありますしね。平熱の体温が人間より高めで温かいし、もふもふの毛の手触りも良いので、人間としても冬場は特に一緒に眠ると気持ちいいということもあるかもしれません。
何と言っても、かわいい我が子のようなものですし、ペットは家族の一員と考えられつつある今日ですから、一緒に眠るのが当たり前と考える人が増えているのもわかる気がします。
一緒に寝るのがアリと考えている人の中にも少し心配するところあり
筆者の周りにも愛犬と一緒に寝ているし、そんなの当然よ!と豪語している友人もいるのですが、それでも時々心配になることはあるといいます。特に、海外でも日本でも実際に起きている、犬からうつった感染症によって重篤な症状が出てしまう人がいるという点については不安に思っているようです。
例えばこんな事例がありました。
(CNN) 米ウィスコンシン州でこのほど、48歳の男性が犬になめられたことが原因とみられる感染症にかかり、病院で両手両脚を切断する出来事があった。
犬や猫の唾液(だえき)にはカプノサイトファーガ・カニモルサスと呼ばれる細菌が含まれていることがある。この細菌は場合によっては、人間の体内で敗血症や壊疽(えそ)などの深刻な健康問題を引き起こしかねない。
男性に症状が現れ始めたとき、家族は最初インフルエンザだと思ったという。妻はこのときの様子について、全身に炎症が出て、野球のバットで殴られたようだったと振り返る。
男性は最終的に病院に搬送された。血液などの循環や血圧が大幅に低下しており、両手両脚の切断手術を受ける結果となった。
感染症を専門とする医師は、こうした値が著しく低下した結果、手足の壊死(えし)に至る場合もあると指摘する。
引用:CNN.co.jp https://www.cnn.co.jp/usa/35123474.html
飼い犬が原因と断定されたわけではありませんが、この方の妻は、原因は飼い犬である可能性もあると言われているそうです。この事例で原因菌となっているカプノサイトファーガ・カニモルサスに仮に感染したとしても、人間に健康被害を及ぼすことは非常に稀だとされています。そのため、この方は非常に運が悪いか、よほど免疫力が下がっていたと言えるのかと思います。
ただ、いくら運が悪かったとしても、これほどひどい状態になってしまうのは誰でも避けたいものですよね。飼い犬と一緒に寝たりキスをすることでなんらかの病気がうつるというリスクは、実際のところどのくらいの確立であるのでしょうか。
実はこんなにあるペットからうつる病気
犬から人間にうつってしまう怖い病気と言えば、真っ先に思い浮かぶのは狂犬病でしょうか。実は、狂犬病以外にも意外とたくさんの病気があります。それらの中には、犬にとっては軽くすむけれど人間にうつると重症化してしまうといったものも結構多いです。もちろん、人も犬も、どちらも軽く済むタイプの病気もありますし、逆に人から犬にさらにもどっていくことで犬が重症化するケースもあります。
一つずつざっくりと特徴などをご紹介するので、頭の片隅に知識として覚えておくと良いでしょう。
簡単に知りたい人は、こちらでまとめていますので、まずはこちらを参考にしてみてください。
狂犬病
原因:ウィルス
犬の症状:犬の性格が変化したように狂暴化し、けいれんし、昏睡して死に至ります。
感染経路:噛み傷
人の症状:風邪のような症状、異常行動、錯乱状態、けいれん、呼吸困難、ほぼ100%死亡。
発症した犬に噛みつかれるとウィルスに感染してしまいます。1~3ヶ月の潜伏期間はありますが、発症して2週間以内にはほぼ死に至る怖い病気でありながら、有効な治療法がないので狂犬病が流行っている国へ行くときにはワクチンを打ちます。日本ではここ数十年発症例がありませんが、世界各国では野生犬を中心に流行っています。
Q熱
原因:リケッチア(ウィルスより大きく細菌よりは小さい微生物)
犬の症状:ほぼ無症状 稀に死や流産あり
感染経路:糞尿や胎盤などの中の病原体を吸入
人の症状:ほぼ無症状ですが時々発熱、筋肉痛、悪寒などインフルエンザに似たような症状あり
犬も人間も比較的軽い症状です。過度の接触でうつることが知られています。
イヌブルセラ症
原因:細菌
犬の症状:ほぼ無症状、流産、胎盤炎、精巣炎
感染経路:尿、流産時の排出物に接触
人の症状:ほぼ無症状、風邪に似た症状
エルシニア症
原因:細菌
犬の症状:ほぼ無症状
感染経路:糞から原因菌が食品などを経由して口へ入る
人の症状:発熱、下痢、腹痛
カンピロバクター症
原因:細菌
犬の症状:ほぼ無症状、子犬の場合は下痢や発熱あり
感染経路:糞から原因菌が食品などを経由して口へ入る
人の症状:発熱、下痢、腹痛、血便
サルモネラ症
原因:細菌
犬の症状:ほぼ無症状、胃腸炎、敗血症
感染経路:糞から原因菌が食品などを経由して口へ入る
人の症状:食中毒の症状(発熱、下痢、嘔吐)、まれに頭痛、意識低下、けいれん、菌血症
猫ひっかき病
原因:細菌
犬の症状:無症状
感染経路:猫にひっかかれて、あるいはネコノミに血を吸われて感染した犬の噛み傷、ひっかき傷
人の症状:リンパ節の腫れ、膿疱、発熱、頭痛、まれに脳症、髄膜炎
パスツレラ症
原因:細菌
犬の症状:無症状
感染経路:空気感染、噛み傷、ひっかき傷
人の症状:風邪に似た症状、肺炎、疼痛、発赤、傷口が腫れる
レプトスピラ症
原因:細菌
犬の症状:発熱、食欲不振、腎炎、貧血、粘膜出血、黄疸、流産
感染経路:尿に接触
人の症状:発熱、結膜充血、筋肉痛、腹部圧痛、出血、リンパ節の腫れ、肝臓・腎臓障害、まれに死亡
皮膚糸状菌症
原因:真菌
犬の症状:フケ、脱毛、発赤、発疹、かゆみ、びらん
感染経路:濃厚な接触
人の症状:脱毛、かゆみ、皮疹、膿疱
犬糸状虫症(フィラリア)
原因:寄生虫
犬の症状:咳、貧血、栄養低下、呼吸困難、湿疹、腹水貯留、心肥大、皮下浮腫、臓器鬱血、死亡
感染経路:蚊を媒体とし、血を吸うことで感染
人の症状:無症状、肺梗塞、肉芽腫、栓塞性血管炎
犬・猫回虫症
原因:寄生虫
犬の症状:ほぼ無症状、子犬は下痢、腸閉そく、肺炎、気管支炎
感染経路:糞から病原体が食品などを経由して口へ入る
人の症状:肝臓、脳、目に障害
エキノコックス症
原因:寄生虫
犬の症状:ほぼ無症状、多数寄生すると下痢
感染経路:糞から病原体が食品などを経由して口へ入る
人の症状:肝腫大、黄疸、腹痛、肝機能障害
ウリザネ条虫症(サナダムシ)
原因:寄生虫
犬の症状:無症状
感染経路:ノミを媒体とし、つぶしたことに気付かず体内に取り込むなどで感染
人の症状:無症状、食欲不振、腹痛、軟便、下痢、じんましん、肛門のかゆみ
かいせん
原因:ダニ
犬の症状:かゆみ、痂皮、脱毛、皮膚の肥厚
感染経路:濃厚な接触
人の症状:皮膚の強いかゆみ、脱毛
参照)
環境省 『人と動物の共通感染症に関するガイドライン』 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/infection/guideline.pdf
東京都福祉保護局『人と動物との共通感染症一覧』 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/douso/kansen/kan_list/index.html
実際に日本で人への感染は発生しているの?
日本での発生例は意外に多くある
ご紹介してきた感染症って聞いたことのないものばかりなんではないでしょうか。聞いたこともないし、そもそも身近に感染したという人の話も聞かないからですよね。そこで、これらの感染症に私はかからない、大丈夫!とあまり根拠のない自信を持っている方も多いのではないでしょうか。実は筆者もその一人でした(苦笑)。世界には発症例があっても、日本ではもうほとんど発症していないのでは?なんて思ったり。ほぼ無症状ってことなら、感染する確率自体がそもそも低いのでは?とか。
そこで調べてみると、日本にも発症例は結構あるようなんです。
例えば環境省のガイドラインによると、次のようにあります。
一時期日本には存在しないと考えられていたQ熱は、ネコからの感染など、毎年 10 例前後の患者数が報告されるようになっています。また北海道の風土病ともいわれたエキノコックス症は、毎年 20 例前後の患者が報告されています。
引用:環境省HP 『人と動物の共通感染症に関するガイドライン(案)』
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/infection/guideline.pdf
今現在は発生例がないといっても、例えば日本では根絶されたと言われる狂犬病も、近い将来日本に海外から入ってくる可能性を否定できません。そのほかの病気についても、日本における発症例が結構報告されています。ざっとご紹介すると次のとおりになります。
エルシニア症:
エルシニア・エンテロコリティカ・・・1971年に食中毒が報告されて以来100名を超えるものなどを含めて14件の報告あり
エルシニア・シュードツベルクローシス・・・1913年に敗血症が報告されて以来15件の集団感染あり。
犬や猫の1~5%がどちらの菌も保菌しており、接触による感染事例の報告もあり。
カンピロバクター症:
下痢をしている犬との接触、子犬飼育者の感染も多い。
パスツレラ症:
1999年~2001年の2年間の平均増加率が45%以上で、10年前の10倍ほど患者数が増えてきている感染症。死亡例も6件と少なくはありますが3倍に増加しているとのこと。
レプトスピラ症:
2003年に1人、2004年に18人、2005年に17人報告あり。過去には3年間で9千人の患者があり、2千人以上死亡した事例もあります。この3年では150頭前後の感染が報告されていますので、人間にもうつる可能性の高い要注意の感染症です。
犬糸状虫症 :
1964年の報告以来、90例を超える報告あり。
イヌ・ネコ回虫症:
イヌ回虫による症例は96例あり、子供や高齢者にも発生し、増加傾向がみられるようです。
ウリザネ条虫症:
国内で14例
疥癬:
減少傾向にはあるようですが、以前は多発していました。
参照:環境省HP 『人と動物の共通感染症に関するガイドライン(案)』 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/infection/guideline.pdf
発症した時には治療方法や後遺症はあるの?
基本は予防が大事
感染した病気によって、いろいろになります。有名な感染症である狂犬病は治療方法がありませんので確実に死に至ると言われている恐ろしい病気です。そのため、発症を未然に防ぐことが重要になりますが、その他の病気に関しては、感染源や原因がはっきりわかって早期に治療を開始すれば悪化する前に治癒することも可能です。例えば、菌類が原因であれば抗生物質を活用したり、症状に応じて炎症を抑える、原因の虫を排出できるようにする、切除するなどの方法があります。
発症数が多いQ熱の場合
比較的発症数が多いQ熱の場合は、抗菌薬で治療可能ですが、2~3週間は治療を続ける必要があります。また、発症してすぐに投薬治療を開始すれば良くなる確率も高いのですが、治療が遅れれば慢性化してしまうこともあり、いったん慢性化してしまうと何年もかけて治療が必要になる場合もあります。
怖いエキノコックス症
また、エキノコックス症は、虫の卵を口から摂取してしまうことで腸壁へ侵入し、リンパ流にのって体のあちこちに寄生してしまいます。そのため、根治するためには寄生した病巣を外科的に切除するしかありません。放っておくと、90%以上の確率で死亡するので、放置しておくことは致命傷となります。早期発見できれば根治も可能ですが、すでにあちこちに病巣が散らばっている場合は完全に切除しきるのが困難となります。感染初期(10年ほど)は無症状であることが多く、気付いた時には肝臓あたりに大きな病巣があるといった状態になっているため恐ろしい病気です。
狂犬病と同じく、エキノコックス症はなによりも予防が肝心だとされ、媒介する動物との密な接触は避けることが望ましいです。北海道で有名なキタキツネや犬が媒介することが多いこともあり、北海道や東北地方に発症例が多いのですが、本州、九州、西日本や四国からの発症報告もあります。そのため、例えどこの地域であっても警戒が必要だと言えます。また、ネズミやその他の動物やその排泄物がついた植物などから感染する可能性もあるため、直接キタキツネや犬との接触がなかったとしても、野山の植物などを直接口にしない、手をよく洗うなどの注意が必要です。
愛犬と楽しく暮らすために
運命の出会いを果たして愛犬を飼うことになったのは良いけれど、今までに説明してきたような怖い病気にかかってしまっては、愛犬にとっても飼い主にとっても不幸なことになってしまいますよね。こうした感染を防ぐにはどうすれば良いのでしょうか。一般的には、国のガイドラインにもあるように、次のことに気を付けましょう。
~犬が感染しないために~
〇愛犬をしっかりしつけ、ネズミやハトなど病気を媒介する生き物を食べたり、遊ばないように気を付ける
〇新鮮できれいな水や安全性の高い食べ物を与えるようにする
〇ほかの犬や動物との喧嘩に気を付け、傷をつけられないようにする
〇ワクチンがあるものについてはしっかり打って予防する
~人が感染しないために(または人から犬へ感染させないために)~
〇愛犬とキスをするなど過剰なふれあいをしない
〇口移しやはしわたしでエサを与えない
〇飼い主と一緒のベッドや布団で寝ない
〇愛犬を触ったあとはすぐに手を洗う
〇糞尿の始末はすぐに行い、衛生的にキレイさを保つ
〇室内飼いの場合はこまめな換気と掃除を行う
〇食器を共有しない
さすがに食器を愛犬と共有するという人はいないかと思いますが、その他のことは意外とやってしまいがちなこともあります。必ずしも愛犬と一緒に寝ることが危険というわけでもありませんし、愛犬とは別々に寝ているのだから安全というわけでもありません。できうることは、様々な予防策を幾重にも行うことが必要なのです。
人から犬への感染などが気になるという方はこちらの記事もどうぞ。
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